The Kinks
The Village Green Preservation Society
Pye : NSPL 18233
side A 1. The Village Green Preservation Society 2. Do You Remember Walter? 3. Picture Book 4. Johnny Thunder 5. Last Of The Steam-Powered Trains 6. Big Sky 7. Sitting By The Riverside side B 7. Animal Farm 8. Village Green 9. Starstruck 10.Phenomenal Cat 11.All Of My Friends Were There 12.Wicked Annabella 13.Monica 14.People Take Pictures Of Each Other |
初期のヒット曲「You Really Got Me」や「All Day And All Of The Night」など、突き刺さるようなギターリフが冴えるブリティッシュビート・バンドとして、中期の『Arthur Or The Decline And Fall Of The British Empire』などのコンセプト・アルバムで、耳の肥えた音楽好きから高い評価を得た生粋の英国バンドとして、その名をロックの歴史に刻むキンクス。
そのリーダーであるレイ・デイヴィス自身が認めるキンクスの最高傑作が、この『The Village Green Preservation Society』である。
このアルバムが発表された1968年という年は、物凄い勢いでロックが進化していった時期だった。
ビートルズの『The Beatles(White Album)』、ストーンズの『Beggars Banquet』など歴史的名盤のリリース、レッド・ツェッペリンのデビュー、徐々に泥沼化していくベトナム戦争と、翌年のウッドストック・フェスティバルでピークを迎えるヒッピー・ムーヴメント…そんな激変していくミュージック・シーンを後目に、キンクスが作り出した世界は、余りにも穏やかでノスタルジックなものだった。
英国・ウェールズの詩人、ディラン・トマスの『ミルクの森で』にインスパイアされて制作されたこのアルバムで描かれるのは、英国の田舎の懐かしい風景と、そこに取り残された不思議な住民たちのこと。
そんなノスタルジックな詩世界を支えるのは、アコースティック・ギターやメロトロンが効果的に使われる柔らかなバンドサウンドと、レイ独自のポップさが冴えわたるメロディー。
1曲目の『村の緑を守る会』と題されたアルバム・タイトル曲の、セピア色を思わせる柔らかい音像が、もうすでにこの作品の全体図を示している。 僕が「フォーキー」という言葉を聞いて真っ先に連想する音は、まさしくこの曲のイントロだ。
そのあとに続くのはサビのメロディーが切ない「Do You Remember Walter」、実際には写真帳という意味だが「絵本」という誤訳がそのサウンドにピタリとはまる「Picture Book」、ブルースの名曲 “Smokestack Lightning” をキンクス流にリメイクした「Last Of The Steam-Powered Trains」、孤独なバイク野郎を歌う寂し気な「Johnny Thunder」、”英国的歌謡曲” とでも言いたくなるような哀愁漂う「Village Green」など、どの曲もフックの効いたメロディーとフォーキーなサウンド・メイキングで聴き飽きることがない。
ただ、歴史を紐解くとこの傑作アルバム、当のキンクスにとっては苦い思い出になっている。
レイ・デイヴィスはこのアルバムをキンクスのラスト作にしようと考えていたらしく、相当こだわって制作したとのこと。それはリリース直前で発売にストップをかけ、もう一度構成を練り直すというタブーを犯してしまうほどに。
そのせいで所属していたパイ・レコードから満足にプロモーションしてもらえず、セールス的には惨々たる結果になってしまったという。
加えて言えば、今作でも印象的なプレイにてサウンドに貢献している、オリジナル・ベーシストのピート・クエイフがこれを最後に、初のバンド脱退者としてグループを去っていったことも、印象的な出来事として挙げられよう。
そんな今作は、リリース当初は振るわなかったものの、やはりそのクオリティの高さゆえ年を重ねるにつれ再評価は進み、現在では多くのファンから最高傑作としての圧倒的支持を得るまでになっていった。
その人気ぶりは、後年に何度も様々な仕様で CD やアナログ・レコードでの再発がなされたことを見ても明らかだ。
ひとたびレコードに針を、もしくはCDをデッキに入れれば、この裏ジャケットに映るきつね色の草原の風景が垣間見えるような、ノスタルジックな音が耳に飛び込んでくる。
秋の午後、柔らかい陽射しを浴びながら過ごすためのサウンドトラックのような、本当に素敵なアルバムだ。
2022.8.27