高田渡 / ごあいさつ (1971)

高田渡

ごあいさつ

King Records : SKD-1002

side A

1. ごあいさつ
2. 失業手当
3. 年齢・歯車
4. 鮪に鰯
5. 結婚
6. アイスクリーム
7. 自転車にのって
8. ブルース
9. おなじみの短い手紙


side B

10. コーヒーブルース
11. 値上げ
12. 夕焼け
13. 銭がなけりゃ
14.日曜日
15.しらみの旅
16.生活の柄

世代を問わず、多くのミュージシャンや音楽好きがリスペクトするフォークシンガー・高田渡の代表作であり、日本の70年代フォーク屈指の名盤だ。

時はベトナム戦争の時代。
当時の日本の”フォーク”は、その演奏力以上に”言葉”に重きが置かれていて、70年代当時のフォークシンガー達はみんな自作自演がモットー。
しかしこのアルバムの半分以上の曲は彼自身の歌詞ではなく、現代詩の詩人たちの作品にアメリカン・フォークのメロディーを融合させる、という方法で作られた歌で数多くが構成されている。
言わば借り物の歌詞であるはずなのに「自作自演歌手」も思わず脱帽するような、この圧倒的なオリジナリティは一体何なんだろう?

冒頭、27秒で終わってしまう1曲目「ごあいさつ」(谷川俊太郎・詩)で聴き手を引き込み、マンドリンが鳴り響くカントリーフォーク「失業手当」へ。
後にトリビュート・アルバム「貘」を作らせるほど、高田渡を夢中にさせた孤高の詩人・山之口貘の詩に曲をつけた「鮪に鰯」「結婚」「生活の柄」、彼自身のオリジナル曲であり今ではマスターピースとなっている「自転車にのって」「銭がなけりゃ」、明治の演歌師・添田唖蝉坊の「しらみの旅」など、収録曲はどれも名曲揃い。
そんな特異な才能がほとばしる作品集の中、京都での日常を綴った「コーヒーブルース」や、好きな人に贈ったというシャイなラブソング「日曜日」など、パーソナルで素朴な歌が僕としては特に好みだ。

参加ミュージシャンは、飲み友達であったというジャックスの早川義夫をプロデューサーに迎え、はっぴいえんど、中川イサト、加川良など70年代フォークを代表する人達ばかりでなかなか豪華。
自伝「バーボン・ストリート・ブルース」によると、このときのレコーディングの際、発売元のベルウッド・レコードは「収録曲1曲につきギャラを10000円出す」と言ったらしく、その提案に俄然ヤル気になり頑張って16曲作ってレコーディングしたところ、ギャラの上限が10曲までと決められていたらしく「なんだ、頑張って損した」と大いに落胆した、という逸話が紹介されていて、何とも彼らしい。

この後、ベルウッドからのリリースは「系図」「石」と続く。
その2作とも、この「ごあいさつ」で確立された”渡”スタイルを踏襲した、いずれも傑作だ(曲数は少ないけど)。
URCで2タイトルのアルバム(1作は共作でレコード片面のみ)を既にリリースしながらも、今作でわざわざ「ファースト・アルバム」と銘打たれた理由が、これを聴けばよく分かる。

2026.3.2