Heron

Biography

1960年代後半ごろに、英・レディングでフォークシンガーとして活動していたロイ・アップスが自身のバンドを組むかたちで結成。トニー・プック、スティーヴ・ジョーンズ、G.T.ムーアが加わり4人組のアコースティック・バンドとなり、1970年にレコード・デビュー。
1972年にセカンド・アルバムをリリース後、G.T.ムーアが脱退し活動休止。
1980年代初頭に活動再開し、メンバーチェンジを経て90年代から再び自主制作にて作品を発表。
ファースト、セカンドがCD再発された2000年代に再評価され、2011年にオリジナル・メンバーで新作を発表。
ボブ・ディランのカバー集のリリースを経て、2016年に初来日ツアーを敢行。
70年代から変わることのない「木漏れ日フォーク」を歌い続ける。

ロックの歴史を紐解くとき、「彼らがいなければ歴史が変わっていた」と評され後進に多大な影響を与えた存在や、メガセールスを叩き出したモンスターバンドのかたわらで、生粋の音楽好きによって語り継がれたり、DJやアナログコレクターによって再発見される、地味ながらも極めて良質な音楽というものがある。
米国においてはカントリー・ロックやサザン・ロック、シンガー・ソングライターものなど、英国においてはブリティッシュ・フォークやカンタベリー・ロックなどの隠れた名盤が数多く語り継がれ、今ではCDでのリイシューやサブスプリクションなどの配信サービスで楽しむことができる。最近の、日本の80年代のシティ・ポップ再評価もそういう流れだろう。
ただ、お手軽に聴くことができるとはいえ、愛する名盤ならばやはりその時代のフォーマットで聴きたいというのは音楽好きの性。
そういう名盤は当時売れなかったことが多くレコードのリリース枚数が少ないため、中古価格が高騰しがちだ。
ブリティッシュ・ロックにおけるその最たる例が、この4人組フォークグループ・ヘロンである。

僕がヘロンと出会ったのは、文筆家でありミュージシャンでもある渚十吾の著書「Strawberry Dictionary」の記述からだった。

ヘロン

70年、イギリスのバークシャーの農場の野原でレコーディングしたアルバムを発表した4人組。
風の音、小鳥の鳴き声、みずみずしい歌声がそこにはある。

時に、僕の故郷は鹿児島南部の田舎町で、山と海にはさまれた極めて長閑なところだ。
田舎者にありがちな都会への憧れは子供の頃からあり、いま住んでいる名古屋で都会の便利さを満喫しているわけだが、それと同時に故郷の田園風景や緩やかな山林の雰囲気も好きで、たまに岐阜や三河の山々へのドライブを楽しむことがある。
そんな僕なので、野外でレコーディングされたフォークの名盤、と聞けば興味をそそられずにはいられない。

初めて手に入れた彼らの音源は、岐阜駅近くのバナナレコードで購入した『THE BEST OF HERON』だ。
イギリスの SEE FOR MILES というリイシュー・レーベルによる編集盤のMSIから発売された国内盤CDで、当時CDで手に入るヘロンの音源はこれだけだったはずだ。
1曲目のボブ・ディランのカバー「Only A Hobo」で、もう心が奪われてしまった。
アコースティック・ギターとハーモニカの優しい音色は小麦色の草原を吹き渡る涼やかな風のようで、これが野外レコーディングのサウンドか、と感心したものだ。
しかし、それに続く「Load & Master」「Yellow Roses」「Goodbye」といった彼らのオリジナル楽曲にこそ、本当のヘロンの魅力があった。
時が止まったかのような儚く美しいメロディーと、繊細に情緒豊かに響く「木漏れ日フォーク」と称されるアコースティック・サウンド。時折聞こえる小鳥の鳴き声は、ライブ盤における拍手のように彼等への称賛にも聞こえる。
実は冒頭の「Only A Hobo」はスタジオ・レコーディングのトラックで僕の感想は的外れだったわけだが、彼等の本質はその高いソングライティング能力とサウンド・メイキング能力であり、バンドの魅力を語る上で野外レコーディングというギミックは、単にサウンド面でのスパイスに過ぎないと考えて間違いないだろう。

70年代初頭に2枚のレコードをリリースして、メンバー脱退を経て活動休止。
しかし、音楽活動は細々と続けられていて、80・90年代にも音源を残している。
メンバーチェンジを経て本格的に活動再開した90年代後半にリリースしたアルバム『Black Dog』は、自主制作ながらも楽曲・演奏共に70年代の作品に勝るとも劣らないクオリティの高さで、表舞台から身を引きながらもバンドが脈々と続いていたことを思わせてくれる。

そして遂に2004年、70年の1st『Heron』と2nd『Twice As Nice & Half The Price』がCDでリイシュー。
このことが音楽好きに好意を持って迎えられたこともあるだろう、その後は活動が活性化し2011年にはオリジナル・メンバーでの新作『Simple As One Two Three』をリリース。2016年には初来日を果し、その模様もライブ盤として記録されている。

僕が知ったときには、まだ幻の存在だったヘロン。
今では70年代の2枚の名盤は高音質の Blu-spec CD で楽しむことができるし、殆どの音源はサブスプリクションで聴くことができる。
とはいえ、かれらのナチュラルな音世界はやはりレコードで存分に味わってみたい、と音楽好きとして願わずにはいられないのだ。

2022.6.5

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