Tudor Lodge (1971)

Tudor Lodge

Tudor Lodge

Vertigo : 6360 043

side A

1. It All Comes Back To Me
2. Would You Believe?
3. Recollection
4. Two Steps Back
5. Help Me Find Myself
6. Nobody’s Listening


side B

7. Willow Tree
8. Forest
9. I See A Man
10.The Lady’s Changing Home
11.Madeline
12.Kew Gardens

僕が「英国フォーク」という特異なジャンルにハマるきっかけとなった、チューダー・ロッジの唯一のオリジナル・アルバム。

名古屋駅・近鉄パッセのタワーレコードでこのCDを手にしたのは2000年~2001年辺りだったか。
どちらかというと、ブルースやカントリーなどの米国ルーツ音楽に執心していた当時の僕には英国フォークの予備知識など全く無く、その中世ヨーロッパ的でミステリアスなジャケットと、帯に書いてあった「田園風景」「牧歌的」というキーワードに惹かれて買ったところ、これが非常に素晴らしい内容だった。

オーボエの厳かな響きに導かれて聴こえてくる、優しいアコースティック・ギターとアン・スチュワートの清廉な歌声が美しい「It All Comes Back To Me」、英国的なウェットで上品なメロディーでありながら明るくてポップな「Recollection」「Help Me Find Myself」「Nobody’s Listening」、ややミステリアスな雰囲気の「Willow Tree」、英国の深い森を駆け抜けるようなインスト「Madeline」を経て、ラストナンバーの美しい田園フォーク「Kew Gardens」
英国フォークのディスクレビューでは「田園風景」という表現が常套句としてよく使われるが、このアルバムの雰囲気こそは寸分違わない。
プログレッシブ・ロックとも密接にリンクする英国フォークというジャンルは、作品によってはとっつきにくい内容のものもあるが、このアルバムは英国らしい格調高さを残しつつも、演奏自体はピーター,ポール&マリーのような陽光射すモダン・フォークのスタイルを軸としているので、入門編としてうってつけだ。

オリジナルのLPは6面見開きのポスターになる変形ジャケットになっていて(CDでも紙ジャケットにて再現)、コレクター市場でとんでもない高値が付いている「幻の名盤」ではあるけど、現在はその音楽的価値がちゃんと評価されているためかCDであれば容易に入手可能。
バンドは90年代に新しい女性ヴォーカリストと共に活動を再開していて、そちらの音源もサブスプリクションで聴くことができる。

そして、僕はもうこのCDを長年聴いているが全く飽きない。
その後、フェアポート・コンヴェンションやペンタングルなどの有名なトラッド・バンドやメロウ・キャンドル、ダンドゥ・シャフト、スパイロ・ジャイラ、トレイダー・ホーンなど魅力的なバンド群を知り、インターネットショップ「PIPER RECORDS」(現・カケハシレコード)やアマゾンでそれらのCDを購入して英国フォークにどっぷりとハマっていったが、それらの有名なグループと比べても、70年代にたった1枚だけで消えてしまったこのグループの唯一作の完成度は極めて高い。
入門編として優れていて、なおかつ耳が肥えた頃になってもまだ充分に聴きごたえがあるというのは、ジャズに例えるならビル・エヴァンス・トリオのかの名盤『Waltz For Debby』にも似ている。
アコースティックの音楽が好きな人には、ぜひ一度聴いてほしい名盤だ。

2022.6.5